2008-01-28

人材募集事情

人材紹介会社の人と話をして、興味深いことを聞いた。現在のIT業界でエンジニアに求められているのは「質よりも量」なのだそうだ。「とにかく人数がほしい」という企業さんが圧倒的に多いのこと。

僕の感覚では、ソフトウェア業界にそれほどエンジニアの人数はいらない。「船頭多くして船山に登る」とはすこしニュアンスが違うが、人数が多くなると管理コストがかかるというのもあるし、人数が多くなると品質を一定水準に保つことが難しくなるというのもある。また僕はぜんぜん優秀ではないが、優秀なプログラマは凡庸なプログラマの10倍以上の生産性を示すうえ、明らかに無能なプログラマ(僕のことかもしれない)は周りのプログラマの生産性を著しく下げる。

それなのにどうして質よりも量なのだろうか。僕の経験では人数を増やすとプロジェクトの進捗は余計に遅くなるというのに。ステレオタイプとしては、

  • 教育コストが安い
  • 大量の退職者がいる
  • 経験や知識はあまり実務に役立たない
  • 単なる頭数として見ている
  • 成果物に対する対価ではなく人月に対する対価なので、人数の多さが直接利益につながる
というあたりだろうか。まさにステレオタイプで、業界を粗っぽくみているが。

人件費を極端に切り詰め、本を数冊渡して「これ読んでおいて」くらいに教育をすれば、とりあえず即席エンジニアが出来上がる。これは実話だが、新卒入社後2週間の研修を受けて「経験2年」として派遣され、さらに派遣された先では「経験5年」として別会社に派遣され、経験豊富なプロジェクトマネージャとして働かされた、という人を知っている。これなら教育コストは安い。

次に大量の退職者がいることだが、激務薄給の上、理不尽な雇用環境にいるとあっという間に人は退職する。それに団塊の世代がたいした知識継承もなくやめていく。するとそこには先に述べたような即席エンジニアが配置されるのだが、「動いているものをいじるな」文化で脈々とメンテナンスされたシステムを前に泣きそうな思いをする。そしてまたあっという間に退職するのだ。

そしてこの業界では「進歩が早い」といわれている。実はそれほどは進歩が早いわけでもないのだが、偉い人や管理者は「最新技術」に弱く、「最新」という言葉がつくと飛びついてしまう習性を持っている(かもしれない)。したがって古い技術でも充分使えるにかかわらず、新しい製品や概念を持ってきて、それらを新しい知識として受け入れなければならないので、経験や知識はあまり実務に役立たなくなる(かもしれない)。

またこの業界では、建設業の考え方を大きく取り入れていたりする。そもそもソフトウェア開発は小説家や脚本家の考え方と似て、人数がいればどうにかなるものでもないし、成果のボリュームがあればよいというものでもない。それにもかかわらず、比較的単純な労働で人材の代替が比較的容易な業界の考え方と同じものを取り入れている。Aさんが1ヶ月かかる作業は、Bさんも1ヶ月かかるし、AさんとBさんでやれば半月でできる、というようなものだ。このようにエンジニアを頭数で数えると、たくさんの人間を投入したほうが工賃は高くなり(製品の価値は変わらないかあるいは落ちるというのに)、派遣した先の企業は利益がでることになる。

上記はもちろん非常に悪いステレオタイプだ。しかしこうしたステレオタイプがあるところを考えると、多少なりとも本当の何かが含まれていることだろう。これらの反対のことを念頭においておけば、あまり幸福ではないソフトウェア産業に従事する人には救いとなりうる。したがってエンジニアを募集するときや応募するときには、不遜な言い方だが「量より質」だ。

2 件のコメント:

ken さんのコメント...

未だにSEという職業が何をやっているのか分からない伊藤です。
ちょうど、大学卒業時、SEという言葉がはやっていた頃で、「SEに決まった」などという友人がいたら、何だそれ?システムエンジニア?ただの営業職を横文字にしただけっちゃうの?なんて個人的に思っていました(笑)

asm さんのコメント...

> kenさん
SE(システムエンジニア)という職業はどうやら日本独自のもののようです。英語にしようとするとそのままではなかなか通じない言葉ですし。

ところで、本名出てますが。