2010-12-05

『アーキテクチャの生態系』

アーキテクチャの生態系――情報環境はいかに設計されてきたか』(濱野智史)を読みました。本書はこの手の本にありがちなフォーマットを踏襲し、序論があり、全体の理論的枠組みを説明し、各論を展開し、結論があるというものでしたが、もっとも面白かったのはタイトルにもなっているような総論あるいは理論的枠組みではなく、2ちゃんねるの分析という「各論」にあたるところでした。

本書の出版は2008年なのですが、本書の中でもたくさん言及されている梅田望夫さんの『ウェブ進化論』に対抗している感がひしひしと伝わってきます。梅田さんはアメリカ的なウェブのあり方を称揚して、日本的なあり方を批判(というか、低く見ている)していましたが、濱野さんはそれを相対化します。「生態系」という言葉でうまく言い切れるか微妙だと思いますが、検索可能性の上に乗っかってつくられるウェブサービスの流れと、そうではないものの流れを綺麗に説明しているように感じました。

その中でも2チャンネル、はてなダイアリー、ニコニコ動画のコメント機能の分析は素敵でした。情報のフローを重視してコミュニティの閉鎖性を排するということや、機械的にゆるくリンクされるために匿名的なコミュニティーが形成されるということ、擬似的な同時性を形成することなど、はたと膝を打ちます。

日本のウェブサービスや情報端末製品は、「ガラパゴス」として揶揄されることが多いですが(ガラパゴスに失礼だと僕は思います)、局地的に発展する機能はその中心ユーザのニーズによって変化すると考えれば、日本のサービスや製品は上手く適応していると考えられるのですよね。本書はそんな価値観の逆転というか、多文化主義というか、そんなところが素敵でした。

ただ、もう少し詳細に見ればまた少し違ったことも言えるのではないかな、と僕は思います。本書の視点は基本的に、アメリカ発祥のサービス対日本発祥のサービスというものでしたが、アメリカ発祥のサービスであってもユーザの偏りがあることはすでに知られたことです。Facebookはフランス・ドイツ・イタリア・スペインといった非英語圏でもトップシェアですが、日本ではやっぱりmixiです。中国ではQQだし、もっともSNSのヘビーユーザが多いといわれるロシアではVKontakte、ブラジルでは不思議なことにOrkut。こうしたシェアの偏りは、決してサービス形態(本書の言葉ならアーキテクチャ)に左右されるものだけでもないと思うのです。

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