2009-08-10

『クラウドソーシング』

クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice)』(ジェフ・ハウ)を読みました。クラウドソーシングという言葉は耳に馴染みがありませんが、クラウド(群衆)から創造力を調達するというようなものだろうと見当をつけて読み始め、期待通りの本でした。

ネット界隈の新事情を解説する本は大抵、「それが僕には楽しかったから」という理由や自己実現目的での参加が語られ、その結果としての「貢献」やら「仲間からの評価」が語られ、趣味や余暇の枠を超えてビジネス界にも一大転換を促す潮流が出現しているというストーリーが語られます。こうしたものに対して、ステレオタイプなのではないか、過大評価なのではないかという疑問を、僕はいつも持っているのです。本書にもあげられている「スタージョンの法則」に則るならば、「クラウドソーシング」事例の90%もカスであって然るべきでしょう。

なるほど、成功事例は世界にいくつもあります。しかしそれらがなぜ成功したのか、類似する別サービスの何が原因で成功しなかったのかといったことに関して詳細な分析があれば、これからのメインストリームにおおいに参考となるでしょう。しかし残念なことに、柳の下の泥鰌を狙ったものは雨後の筍状態ですが、ビジネス的な意味での成功事例は世界でも一握りです。その一握りがあまりにも輝かしいので忘れられがちですが、今のところの成功企業は従来通りのビジネスを続けている方が多数派です。確かに変化しつつあるのでしょうし、その変化がどのようなものなのかわかりにくいので成功事例を観察するのは当然のことですが、だからといって変化のかたちを確認するには時期尚早と僕には思えるのです。

オープンソース界に目を向ければ、それはバラ色の未来や既存の価値観を転覆させる革新ではなくて、普段僕が生活して経験するものとさほどかわりのない確執やら便宜やらが垣間見られます。例えば言語の壁(英語とその他言語)を超えたとしても時差は超えられませんので、素早いコミュニケーションや対応をするにはアメリカの活動時間が有利です。カリスマ的なリーダーがコミュニティへの不満から関与を取りやめたりもしますし、猛烈な主義主張のために別のコミュニティと軋轢も生じさせます。

今のところオープンソースは有用ではあっても銀の弾丸ではないし、今のところロングテールは儲かるかも知れないけれど既存ビジネスを一変させるものではないし、集団的知性は適切なプラットフォーム作りに苦労します(「はてな」や「OKWave」などを眺めれば、びっくりするほど不適切な答えも、何を得たいのかわからない質問もあります)。インターネットがジャーナリズムを変えると言われながら10年以上経ちますが、トラフィックを稼ぐにはテレビネタが一番です。さて、これからどうなることやら。

本書は面白いのですが、少し夢見がちでセンセーショナルな書き方をしているのではないか、という感想をぬぐいきれませんでした。「クラウド」がバズワードの仲間入りをしないと、僕は断言できません。あと、翻訳に少々難ありです。Scott E. Pageの表記で「ページ」と「ペイジ」が混在していたり、"REBEL CODE"の訳書が『反乱のコード』になっていたり(正しくは『ソースコードの反逆』)。さらに余談ですが、本書は「ハヤカワ新書juice」というレーベルなのですが、巻末にあるレーベル紹介文が感動的です。

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