2010-07-10

『死亡フラグが立ちました!』

死亡フラグが立ちました!』(七尾与史)を読みました。歯切れの良さが素敵なゲーム感覚の作品でした。

本書は第8回「このミステリーがすごい!」大賞最終候補作品を加筆(というより、絞り込み)修正したものだということです。僕の感想は、ミステリーとしてはいかがなものか、というものです。そもそもミステリーって、すごく限定された作法を持ちますよね。犯人は登場人物の中にいなければいけないし、奇想天外なトリックは許されるにしてもまったく現実感のないものは許されません。その点で言えば、この作品は犯人探しの面白みもトリックの工夫もさほどありません。

犯行は「風が吹けば桶屋が儲かる」のように行われます(この位ならネタバレではないと信じつつ)。その理屈は、かの『緋色の研究』でホームズがワトソンの身辺事情を言い当てたときのように、かなりこじつけです。ストーリーはかなり先読みできます(実際僕は、本書の2/5くらいで読み進めたところで予想し、ほぼその通りになりました)。登場人物達はどこかで類型化されたことのあるような人たちで、まさしく「キャラクター」と呼ぶにふさわしい感じです。

ですがそれがきっちりと組み合わさったときのおもしろさというのは、新しい感覚といえなくもないかな、と思いました。感触が似ているといえば、映画の「下妻物語」のようなもので、パッチワークのようにすでにある「お約束」をつなぎ合わせて、それらの「お約束」がイベントを経て伏線になり、軽く楽しく、すっきりさっぱり、テンポ良く進んでゆきます。

「キャラが立っている」という言い方をしますが、新しいキャラを創造しようとするか、既存のキャラを修正しようか、それともこれまでのキャラを純化しようか、というような選択肢があったなら、本書はその最後の純化する道をたどったのでしょう。これをおもしろく感じるには、読み手がかなり均質である必要があるな、と思いました。映画やドラマや漫画や小説やゲームといったコンテンツをある程度消費した経験のある人には、様々な説明をしなくとも世界を読み取ってくれるメリットがあるし、メタな楽しみかたをするところもあります。ですが反面、経験の蓄積が浅い人(例えば小学生とか)だったらどう読むだろうと思うと、すこし気になります。今のところお約束となっている様々なことは、これまでのいつかに斬新だったことで、それらのエッセンスを抽出したようなものだからおもしろいとは思うのですが、おやじギャグのたどる道と同様、うまくワクを作らないと寒いだけになってしまいます。

書いているうちに、こういうのは「紋切り型」や「クリーシェ」と同じことだなと気づきました。まるで紋切り型表現だけでおもしろいことを言う人もいるし、寒いだけになる人もいるようです。そして本書は、おもしろくなったほうの素敵な例でしょう。

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