2010-07-16

『ゼノンのパラドックス』

僕が学部生で哲学を受講していたとき、ある講義で教授はゼノンのパラドクスについて話をしたのですが、無限級数の問題がどうして哲学的な謎になるのか僕にはどうしても理解できませんでした。アキレスと亀のパラドクスを例にとれば、1) アキレスと亀の距離は0に収束する。2) 仮に収束を解として認めないなら、「アキレスは追いつけない」のではなく「問いをやめられない」の錯覚であり、アキレスが追いつけるかどうかは問題ではなくなる というような感じでかみついたのです。

そんなこんなとは関係なく、『ゼノンのパラドックス―時間と空間をめぐる2500年の謎』(ジョセフ・メイザー)を読みました。どことなくすっきりしない感想を持ちましたが、パラドクスが微分の話にとどまらないということは得られて良かった知見です。本書は決してゼノンのパラドクスに焦点を当てているのではなく、運動(物理的な意味での)と時間・空間について話を巡らせています。本書では古代ギリシャでの制約(無限の概念を封じたこと、無理数がないことなど)を、数学的・物理学的に徐々に拡張しても、やはり運動には不明な部分があるという歴史を、物語風にたどっていきます。

こうした数学(特に微分のあたりまで)と物理(特に相対論・量子論以前)の物語という面ではとても良い本だと思いました。速さ=距離÷時間という小学校で習うことも、時間という計量可能な数値を持たなければ考えることもできませんし(機械式時計の発明以前は、小さな時間を計測することができなかった)、もっと現在に近いところ(過去100年程度)でも、物体の運動を極大と極微にするとどう考えることができるのか、とか、「わあ、びっくり」と思い知らされます。

ただ、全体の見通しを立てにくい本です。ちょっと話が拡散しすぎているような印象を受けました。

目次
第1部 ざわざわとした不条理
 1. 運動の逆説を語る前に
 2. アテネへ
 3. アリストテレスが見た世界
第2部 ゼノン、ルネサンスを生き延びる
 4. 速さが量となる
 5. ガリレオ・ガリレイ――近代科学の父
 6. 惑星の舞踏
第3部 ゼノン、時の砂に埋もれる
 7. 止まって動く――時間と時計
 8. デカルト、そしてxとyの魔術
 9. 矢の軌跡
 10. りんごから啓蒙時代へ
第4部 ざわざわとした不条理ふたたび
 11. 光の速さ
 12. アインシュタインの時空革命
 13. おっと、また粒々になるじゃないか
 14. 隣はない、でも「隣」って何だ?
 15. 一筋の流れ

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