2009-01-07

『香水』

香水―ある人殺しの物語』(パトリック・ジュースキント)を読みました。某所の100冊文庫企画にエントリされている作品で、実に味わい深い小説でした。

なんといっても匂いが主要な要素である点、類書は多くありません。僕の好きな『匂いたつ官能の都』(ラディカ・ジャ)も匂いをめぐる物語だしフランス(特にパリ)を舞台としていますが、それに比べるとこちらのほうが奇譚ともいうべきお話で、まことにもって胡散臭いし荒唐無稽。それでいて皮肉でユーモラスで陰惨で官能的。

そもそも人間の嗅覚というやつは不可思議なもので、他の哺乳類と比べると格段に退化していますし、嗅覚疲労も起こります。発生学的には最も古い器官でありながら、人間ではそれほど機能していないという不思議。それでも接触による感覚受容という変わった方法だから、距離が離れていようが接触するという、なにやら妖しい魅力を放っています。

だからこそ、嗅覚を扱った本作は魅力的なのかも知れません。妖しいし、根源的な欲求や不安に揺さぶりをかけられるし。しかも根源的な不安の最たるものは、自分自身が何者でもない(あるいは何者でもあり得る)という事なのかな。

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