2009-01-18

『細菌と人類』

細菌と人類―終わりなき攻防の歴史』(ウィリー・ハンセン、ジャン・フレネ)を読みました。取り立てて読みどころがあるわけでもないし、ドラマティックなわけでもないのですが、なぜか一気に読ませられる魅力を持っています。

本書で取り上げられている伝染病は以下の通りです。

・ペスト ・コレラ ・腸チフス、その他のサルモネラ症 ・細菌性赤痢 ・発疹チフス ・淋病 ・脳脊髄膜炎 ・ジフテリア ・百日咳 ・ブルセラ症(マルタ熱) ・結核 ・梅毒 ・破傷風 ・ボツリヌス症 ・炭疽病 ・ハンセン病

それぞれには医学者たちの真摯な取り組みやら、伝統的価値観からの罹患者の阻害、罹患者たちの治療への渇望、治世者たちの予防の望みなどが入り乱れているのでしょうが、通読して思うのは人間の交流が広く行われるにつれて必然的に世界的に感染症が広がること、特に戦争による人間の移動と、それにともなう環境の変化、貧困による不充分な衛生環境と飢餓により大流行していたのだな、という感慨です。

そもそも細菌への取り組みが活性化したのは、近代医学の進歩もさることながら、大規模な通商や人間の移動を経て様々な風土病が全世界化したことにも起因しているのでしょう。その証拠となるかどうかはわかりませんが、多くの伝染病は記録に残されている限りではかなり古いのにもかかわらず、有効な予防法や治療法が模索されるようになったのはせいぜい数百年のこと。いくら微視的な観察術や病理学の進展が必要といえども、この時間差は解せません。

現時点で考えれば、ボーダレスで物資やら人間やらが流動しているような錯覚を覚えますが、やはり発病の地域差を見れば一目瞭然で、富める地域と貧しい地域では明らかに死亡率や発病率が違います。やるせないです。

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