2009-01-05

『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』

ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉』『ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉』(ポール・オースター編)を読みました。

文庫2冊だったので、年またぎで読みましたが、これは非常に面白い本でした。コンセプトはアメリカに住む人達による「本当の話」を集めること。NPRで編者が呼びかけ、集まったものを選び、読み上げたそうですが、まさに事実は小説よりも奇なり。単に変わった話や不思議な話というばかりではなく、変哲のない風景から味わい深い心象が垣間見えたりします。

編者によって選ばれた話は179編とのこと(僕は数えていませんが)。大雑把に分類されてはいますが、内容は多岐にわたっています。アメリカという捉えどころのない国を解説する本は多いですが、それらのほとんどは政治面・経済面・宗教面などのどれかの側面に限定されることが多いです。しかし本書はまるで柳田國男の民俗学のように、アメリカ国民の「生の声」を多数集めることによって、アメリカという国を直接描くことではなく、間接的にあぶり出しています。

極めて短い短編の連続なので、読んでいるうちに、物語の多さに溺れてしまいそうな感覚がありました。多彩な物語はすべて現実の物語で、現在僕の周りにいる人たちもそれぞれが持っている物語だと思うと尚更です。誰かの言葉に、人は人生のうちに必ず一冊の小説を書くことが出来る、というものがありましたが、それを短編にして実現させてしまったような本でした。

少しだけ難点をいえば、当世の名訳者たちによる訳文がきれいすぎます。編者が冒頭で書いているのですが、収められた短編は決して文学的な文章とは言い難いとのことでした。ところが日本語訳は、なかなか悪文に読めないのです。ポール・オースターの基準から見たら文学的とは言い難いのかも知れませんが、僕の基準からするとこの訳文は充分に文学的でした。日本版の「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」をしたら、どんな文章が集まるかを想像すると少し面白いです(小川洋子さんや古川日出男さんがやったそうですが)。

0 件のコメント: