2009-12-27

『〈本の姫〉は謳う』

<本の姫>は謳う』(全4巻、多崎礼)を読み終えました。『煌夜祭』に大いに感心して、多崎さんの作品を他に読んでみたいと思っていたので手に取った次第です。

『煌夜祭』の雰囲気とはとっても違うと感じました。『煌夜祭』から感じたのは独特な世界で展開されるしんしんとした悲しみと、静かに抑制された雰囲気だったのですが、この作品はライトノベル回帰とでもいおうか、いかにもな行動・いかにもな舞台設定・いかにもなボケ、つまり軽くなったとでもいいましょうか。決して嫌いではないです。

嫌いではないと言っても、詰めの甘さをいろいろなところで感じました。この物語の重要な要素は文字と本なのですが、文字(「スペル」)の源泉は結局のところ何かとか、文字(「スタンプ」)の技術はどのように継承されるかとか。でも文字や本を使って描かれる物語には魅力的なものがあり、著者は本がとっても好きなのだろうな、という印象を受けます。

その他にも、登場人物たちは魅力的と言えば魅力的なのですが、一面では類型的なキャラクターを当てはめているだけではないかとか、台詞の語尾を特徴的にすればキャラクターがたつと勘違いしているのではないかとか、(以下少しネタバレ)物語の時間軸が3つあるのですが、それらの相互の関わり方が不思議な力で強引にまとめられているとか(ネタバレここまで)、各種名称の作り込みが安直すぎるとか、魔法の関わらない工業的技術がかなり曖昧になっているとか、まあいろいろと。

文句はつけたくなるけれども、4巻まで読ませるおもしろさがあったのでしょうね。物語の終盤になっても、このお話は収束するのだろうかというハラハラドキドキ感は格別でした。読み進めるほどにその先が気になる質の作品でした。でも僕は『煌夜祭』の方がずっと好きです。

本書を読んで、不覚にも目頭の熱くなるシーンがありました。自覚はしているのですが、僕は音楽が絡むと涙腺がゆるみます。特に音楽で大勢をあおり立てるような場面に弱いです。

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