2008-07-17

小説の感想3冊分

・『空飛ぶ馬』(北村薫)
「人の死なない本格ミステリ」です。それだけでも僕の好みにフィットするのですが、それだけでなく登場人物たちの眼差しの優しさ、ヒロインの魅力(文学少女で落語好き)、知と情のバランス、作品中に登場する風景や季節の鮮やかさ、とても清々しく読めました。

ただ、文学と落語の世界にある程度通じていないと、それらの描写が単なる装飾になってしまわないかというほど、悪く言えばペダンティックに書かれています。僕は教養の深い人間ではありませんが、結構知らない作家や噺が出てきて、その度にメモメモ。読み流しても面白いとは思うのですが、味わいたいと思ったら結構真剣に取り組んだほうが良いかな、と思います。

・『私が語りはじめた彼は』(三浦しをん)
確かにうまい小説だと思いました。しかし僕の読みたい小説ではないと感じます。男女の感情の機微や愛憎などを実にきめ細かく描いています。しかしそこに描かれる半ばどす黒い心理は、僕には無縁とは言わないまでも、少なくとも僕が知りたいことではありませんし、味わいたいものでもありません。

こう書くと、なんと一方的な読者だろうと我ながら思いますが、仮にそれが世の中の真理だとしても、知らないほうが幸せなことはあるだろうと思うのです。そしてこの小説に描かれる世の中の真理はまさにそれに属するものではないかと。

と、この作品を好きな人にしてみればひどいことを言っているようですが、小説自体に不満はまったくありません。どのページを開いても素敵な文章が踊っています。ただし読後感が僕にとっては不愉快だっただけです。

僕には何か後ろめたいことでもあるのかな。

・『煌夜祭』(多崎礼)
ありがちな舞台設定(十八諸島という閉じた世界)と、ありがちな世界観(剣と機械と魔物の世界)ですが、「語り部」という存在を巧みに使って物悲しい物語を展開させていきます。

ライトノベルとかそういう枠に関係なく、純粋に素敵なエンタテイメント作品でした。

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