2008-11-01

『大人の見識』

大人の見識 (新潮新書)』(阿川弘之)を読みました。週末に生家に帰ったのですが、その帰り道で読む本がなくなったため、生家の書架にあったものを適当に選んで手に取った本です。

「○○の品格」系の本と同じようなものだろうと想像していたのです。それで著者が「あの」阿川さんですから、きっと大日本帝国海軍万歳な本だろうと。読んでみると確かに海軍万歳なのですが、海軍の中の紳士たちが先の戦争に突入することを必死で反対していた様を伝聞などで聞くと、これがなるほど大人の見識というものなのかな、と思わされました。

本書の内容としては、大正から昭和にかけての、海軍の知られざるエピソードとその伝統の柔軟性を紹介しています。そして海軍が範をとった英国的紳士のユーモアのあり方、そして英国王室と密接なつながりのある天皇家のあり方など、筆者ならではの人脈から聞いたり書物から得た戦前・戦後の話が披露されています。筆者自ら書いていますが、「大人の見識」ではなくて「老人の非見識」とのことですが、これは謙遜というもので、おじいちゃんの知恵袋のような本でした。そして主にユーモアと自由とについて書かれていますので、エピソード集のような読み方をしても面白いです。

もちろん内容はもっと多岐で雑多なもので、他にも日本語のあり方であったり、儒教文化の再考であったりするのですが、乱雑に綴ったような本でありながら流し読みするのはもったいないような本でした。滋味あふれるというのはこうした本なのかな、と幾分若くない趣味を持った僕は感じました。ちなみに僕は、『論語』などの四経五書を10年くらい前から折に触れて眺めている程度の入門者ですが。

遠藤周作さんや北杜夫さんのエッセイには、若い頃からの阿川さんが頻繁に登場しますが、曰く海軍キチガイ、怒りっぽい瞬間湯沸かし器。そうしたイメージが少し薄らぎました。

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