2008-11-18

『第六大陸』

第六大陸〈1〉』『第六大陸〈2〉』(小川一水)を読みました。

本書の内容は単純で、民間企業が月に有人滞在基地を建設する、というものです。

興奮しました。宇宙開発の話は大好きなのですが、この小説はきわめて近い未来を舞台としているだけあって、歴史的宇宙開拓の事実もたくさん出てきますし、現在進行中(あるいは頓挫中)のプロジェクトの話も盛り込まれています。そのうえ科学技術的には、現在の技術でも決して実現不可能ではないのではないかと思わせるほどにリアリティがあります。そのぶん人物の描写は手薄になっているのかも知れませんし、ストーリー的に広がりがないかも知れませんが。

まるで近未来のプロジェクトXを読んでいるような気がしました。ひとつの感想としては、登場人物たちのひとりでも、一緒に仕事をしてみたいということです。『妙なる技の乙女たち』でも思ったことですが、小川さんはプロとしての自覚と実行力を備えた魅力的な職業人を描くことに長けていますね。

仕事に燃える人たちの話は、それほど得意ではないのです。私事ですが、僕はかつて仕事に没頭し、帰宅しても寝るだけが当たり前でしたし、家に帰らないことも多い状態でした(今はまったく違いますが)。大きな企業で新規事業の立ち上げに携わり、関係企業の調停やら技術的説明やらにじたばたし、その傍らでシステムの設計をしてたりしていました。僕はプロジェクト完了前に退職しましたが、その後の実働している成果をみているとそれなりな満足を覚えてしまうのですね。

なぜそれをするか、どうやってそれをするか、そうした疑問には仕事をしている上では常につきまとうものです(僕が今従事している仕事も疑問に満ちています)。しかし各人の思惑はそれぞれでも完成型は最終的にはたったひとつ。それに向けての協働体制はそれなりにやりがいのあることです。それが既にあった出来事をなぞるのではなく、これから起こりうる想像的な出来事を、圧倒的なリアリティをもってシミュレーションし、読者を飽きさせない展開も含んで描かれる小説として、繰り返しますが興奮しました。

ちょっとだけ難点をいうなら、特に金額面で、数字の桁違いだろうと思えるようなところや矛盾が多々みられました。これは実現可能性という夢を描く上で作者が必要と感じたからあえて桁違いで書いたのでしょうが(後書でもそんなことに触れていました)、「そんなわけないだろう」というツッコミも少し入れたくなってしまうのは、僕が熱血漢ではないうえ仕事に夢を持たないせいでしょう。あとはネタバレになるので書けませんが、有人滞在基地のある目的とその結果に関しては割り引きしたい気分ですし、蛇足のような気もします。

とりあえず、長く僕のお気に入りの本になることは間違いありません。

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