2008-07-22

第1感

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(マルコム・グラッドウェル)を読みました。原題は"Blink: The Power of Thinking Without Thinking"ですので、邦題はちょっと行き過ぎなのではないかと。なんとも感想の書きにくい本です。

面白いことは面白いのです。例えば美術品の真贋を見極めるためにいろいろな科学的調査をしたのとキュレータが一瞬で判断したのでは、キュレータのほうが正しい判断をしたとか、短い夫婦の会話からその後の夫婦が離婚するかどうかを判断するとか、軍事的戦略を豊富な情報から分析的な意思決定をしたのと経験豊富な指揮官が即時に判断したのではどちらが優勢だったかとか、例が豊富です。

おそらく認知心理学や行動経済学に属するのでしょうが、そうした実験の概要が紹介されているので、それを読むだけで楽しいのですが、だからといって「最初の2秒のなんとなくが正しい」というわけでもないことは本書にも書かれています。いったいどうしろというのでしょうか。専門的知識を身につけた人の適応性無意識はおおむね正しく、素人の適応性無意識は判断前の情報に大きく左右される、といったところだと思うのですが、なんとも歯切れが悪いです。

しかし面白い。何が本書の欠点かというと、「考えずに判断することを考察する」というそもそものテーマが揺らいでいるというか、筆者の論理的展開が不明瞭なところでしょう。それぞれのエピソードは楽しいけれども、それを纏め上げるとなんだか良くわからない、という感じです。

同じ著者の『ティッピング・ポイント』を以前読んで、似たような感想を持ちました。ひょっとしたら著者の韜晦趣味なのかもしれません。ともあれ、心理学的な実験の紹介を読んでいるだけで楽しくなれる本でした。

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