2008-07-05

近頃読んだ本の感想をまとめて

以下、すべて再読です。

・『日本人の祖先』(山口敏)
日本人のルーツを探る自然人類学の教科書みたいな本ですが、この分野は遺跡の発掘で大きく説が変わるから、1986年に出版された本書など、非常に古い内容になってしまっています。

自然人類学のなかでも骨学を中心として、だいたい3万年位前から現代にかけての慎重な書きっぷりには著者の真摯な取り組みが見受けられます。それ以前のことになるとどうも……。

・『影をなくした男』(シャミッソー)
一人の青年が自分の影と「幸運の金袋」とを取引する。青年は影をなくした代わりに無尽蔵の大金を手にするけれども、影のないことによって人々から冷たい目を向けられる。というようなお話です。

1814年初刊の本なのですが、このころのヨーロッパ人、とりわけロマン派の人たちは、メルヘンタッチで少し黒く、そして優しい話を書くのが上手だな、とつくづく思いました。挿絵も不思議・不気味・悲しい・ちょっと優しい感じが出ていて、とっても素敵です。

・『ルナティックス - 月を遊学する』(松岡正剛)
1993年発行の単行本は装丁も素敵だけれど、amazonに書影がなかったので文庫版へのリンク。月の持つ儚さ、脆さ、弱さ、強さ、したたかさ、怪しさ、つまり一言でいえば著者言うところの「フラジャリティ」を余すところなく(まだまだだと著者は言うけれども)自由奔放に描いた本です。

著者一流の博識をもって、古今東西の思想、科学、神話、文芸、絵画、詩歌、音楽、舞踏などでの月の扱われ方から、「フラジャリティ」をあぶりだすような記述は、どこから切り込んでもとらえどころもなく、どう考えても論理的でなく、まさに遊びながら月を愛でている感触がしました。優雅な本で、太陽よりも月を愛する人には絶対お勧めです。

ただ、書かれている内容は著者の韜晦趣味というか、タルホ・イナガキあるいはロジェ・カイヨワ流の遊び精神というか、縦横無尽・自由奔放に疾走する感じなので、それがいいとも悪いとも。

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