2008-09-22

モーダルな事象

モーダルな事象』(奥泉光)を読みました。

本書はミステリの体裁をとりながら、ファンタジーだとか様々なごった煮のスタイルで構成されています。おなじみのトマス・ハッファーであるとか、フォギーとか、野々村鷺舟、宇宙音楽とかも出てきますし、ユーモアにあふれる文体も健在ですので、奥泉的世界に親しんだ人なら突飛な展開にも現実にはあり得ないようなファンタジー展開にもついて行けるだろうと思います。

はじめは筒井康隆さんの『文学部唯野教授』みたいなものを想像していました。僕の友人たちが勤めている大学の惨状とよく似た大学の内側がおもしろおかしく描かれていたりして、その世界になじみのある人ならば「うんうん」と頷けます。次第にミステリ色が濃くなり、いつも通りのトンデモ超文明やらファンタジー的世界も絡んできます。

著者の本を読むといつも思うのですが、奥泉さんは日本文学に精通しているはずなのに、あえてそれを壊したり茶化して見せるのがとても上手なのですよね。怜悧な文体からいきなりしまりのない文体に移行したり、伝統に則った「ありのまま」を完全に無視をしたり、作中に作者や過去の日本文学の作品を織り交ぜたり。そういったところも含めて、隅々まで楽しめます。

すんなりとこれはミステリであるなどと思って読むと、さほどたいしたことのない作品になってしまいそうですが、まあ奥泉さんなりの「文学」に対する挑戦なのかな。

ついでながら、著者に文句を言うわけではありませんが、おそらく奥泉さんの宇宙音楽は成立しないと僕は考えています。フィボナッチ数列は1、1、2、3、5、8、13、21、……というのが有名で、よく例に取り上げられますが、正確には数式で表現されます。ですから2、2、4、6、10、16、26、42、……というのもあり得るわけで、もしその数列に従って音楽をつくったら単純な二倍音になりますので、和音としては1からはじまる数列と2からはじまる数列とは調和しないはずです。まあファンタジーの世界ですので、きっと美しい調和が見られるのでしょう。

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