2008-09-26

すばらしき愚民社会

すばらしき愚民社会』(小谷野敦)を読みました。大雑把に言うと時事評論の本です。

僕は雑誌を読まないし、論壇にも興味をまったく持っていませんので、本書に登場する誰かの主張などを(単行本になったものを除いて)吟味することができませんでしたが、著者の主張は極端ではあるもののおおむね正当で、ころころと主張の転向する時事評論家の書いたものではなく、まじめな学者の書いたものであるという感想を持ちました。ただ、社会学を知らずに社会学者には歴史性がないなどと宣うのはやめて欲しかったですね。一部の有名社会学者やある部門(例えば数理社会学)に歴史性がないだけです。

本書の主張は多岐にわたっていて、中心となるのは「大衆論」ですが、ここでいう大衆とは実際は学者社会や知識人社会を指しています。

目次は以下のようになっています

序 大衆論とその後
第一章 バカが意見を言う世の中
第二章 迷走する階級・格差社会論
第三章 日本の中間階層文化
第四章 「近世」を忘れた日本知識人
第五章 「説得力ある説明」を疑え! 丕ケ丕ケカール・ポパー復興
第六章 他人を嘲笑したがる者たち
第七章 若者とフェミに媚びる文化人
第八章 マスメディアにおける性と暴力
第九章 アカデミズムとジャーナリズム
第十章 禁煙ファシズムと戦う

僕の場合、要は書いてある内容を咀嚼できれば、右だとか左だとかはどうでもいいのです。本書の場合は過激すぎる表現や、著者の個人的交友範囲や肉体的・精神的問題に端を発する議論が散見されますが、おおむね納得できます。ただし、新聞・雑誌・TV・ラジオなどの、いわゆる日本論壇やらに精通していないとすんなりと内容を理解できないのが残念です。僕はそれらのどれにも興味をまったく持っていませんので。

面白いか、というと微妙です。論理展開はきわめて学者的で、要するに元資料を点検し、根拠となる証拠を出し、他者にも再現可能な形で陳述する、という王道です。その王道が批評などの世界では無視されているのか、著者は激しく攻撃していますから、その点少し不快になります。しかし議論を追っていくのは面白く、それでいて単調な(つまりかなりまっとうな)結論になりますのでつまらないし、様々な内容を扱っているため批判に対する批判に徹したりしているのもつまらない。つまりどちらとも言い切れません。

学問は面白いけれども、そのほとんどの部分は地道な単純作業やら何やらで埋まっています。想像力の飛躍や発想の転換や視点の変化などという大それたことは滅多に起こりません。そのつまらなくて地味な世界を無視するような「派手な」言論には魅力はあるものの、正当性は疑わしいものもありますし、資金面などの利害関係もあります。ですから僕は新聞・雑誌・TVなどへの興味を失ったのですが、著者は新聞にも雑誌にも目を通し、Web上での議論にも目を通し、時事評論的な単行本にも目を通し(そして質問や批判の手紙やメールを書き)、ずいぶん忙しい(あるいは暇な)人なのだな、と感心せざるを得ません。

もてない男』は素晴らしく面白かったな、と回顧してしまいます。

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