2008-09-29

ウイルス進化論

ウイルス進化論』(中原英臣、佐川峻)を読みました。

これは面白いです。ダーウィンの進化論や、ネオ・ダーウィニズムの主張を知らなければ読むべきではないと思いますが、それらを知っているなら斬新な視点やダーウィニズムの反駁の仕方など、読むべき点は多いです。論理的な無茶もかなりしていますが、それを含めて議論の仕方は面白いです。

本書ではウィルスによって遺伝子が運ばれ、とある生物の遺伝子にそのウィルスの遺伝子が組み込まれ、生物の遺伝情報を変化させることによって進化が起きるという主張をしています。確かにレトロウィルスは逆転写酵素を持ちますし、ウィルスの遺伝情報で宿主の遺伝情報を書き換えます。つまり、進化はウィルスによる伝染病である、という主張です。

ツッコミどころはとっても多いので、それらのところに難癖をつけるのも楽しいですが、とりあえず著者らの主張を全て飲み込んで理解しようとすると、凄く違う世界が開けてくるので、それを空想するのは楽しい経験です。僕は生物学者ではない素人だけれども、どうも怪しいと思わせるところが多いので、きっとこれはトンデモ科学の一種でしょう。

特に進化の方向性に関する議論には慎重にならざるを得ません。下手をするとインテリジェント・デザイン説のようになってしまう危険性もあります。また大きな問題としては、カンブリア紀に代表されるような環境の激変期に非常に多種の生物が発生したことはウイルス進化論では説明できません。種の増減(特に増)がこの説ではうまく説明できないのです。

ですが読み物として楽しいです。信じてしまうとちょっと問題ありでしょうけれど、ウィルスによって進化する可能性もある(レトロウィルスによって遺伝情報が書き換えられるのは確かですから)、ということは保留しておいた方が良いかもしれません。つまり本書の副題である「ダーウィン進化論を超えて」というのではなく、ダーウィン進化論の一部を補完する内容にはなり得ます。著者たちは根本的に相容れないと考えているようですが。

まあ、進化論自体が仮説ですので楽しみ方は色々ですが、とりあえず素人としては色物よりは定番を信頼しておけばいいかな、と思います。

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