2008-10-04

テレビ霊能者を斬る

テレビ霊能者を斬る メディアとスピリチュアルの蜜月』(小池靖)を読みました。著者の書いた『セラピー文化の社会学』を読もうと思って、その肩慣らしに。

江原啓介さんや細木数子さんらのテレビでの活躍ぶりは僕はまったく知りませんが(僕はテレビ・ラジオ・新聞・雑誌に触れないのです)、その二人を中心に、過去30年間にわたってテレビなどで話題になった霊能者を本書では取り上げています。

著者は宗教社会学者だから、霊能者たちの行いや能力について、真偽の判断は下しません。あくまでその人たちのレトリック、方法論、既存の宗教観との類似や差異、経歴、パフォーマンス、その人たちに対する評価・批判などを紹介して、霊能者たちが活躍する社会やメディアを論じています。非常に冷静というか突き放したというか、とにかくクールな書き方で、決して霊能者たちを一方的に非難するものではありません。しかし結果的に冷静な観察から導き出せるものは、メディアで活躍する霊能者たちの、多くの矛盾や信憑性の欠如です。まあどんな人間でも矛盾を多く含んでいますし、全幅の信頼を寄せられるような人も少ないでしょうが。

著者の主張を端的に言ってしまうと、社会的な格差や家族形態の崩壊、伝統的宗教の機能不全といった現象(それらがあるかどうかはさておき)が、メディアで霊能者たちを活躍させる背景となっている、ということです。

メディアが霊能者たちを活躍させる理由を突き詰めて言えば、視聴率がとれて、大金が動くからでしょう。なぜ視聴率がとれるかというと、多くの人が興味本位であったとしてもそれを見るからでしょう。公共放送でもない限り、メディアは霊能者を礼賛する番組を作成したところで問題視するものではありませんが、霊能者たちを無批判に賛美しているメディアにはどこか危険なものがあることは、本書でも指摘されています。

霊的なものに対する関心は、世界のどこでも見られます。もちろん関心があるだけではなく、先進諸国ではメディアに取り上げられたりもします。特に日本が顕著かも知れませんが(知りません)世界のどこでも、そして過去30年間にわたってテレビで取り上げられたにしては、霊能者の活躍と社会背景の相関性に関する著者の分析が的を射ているかどうか、僕には少し疑問です。

遠い過去からずっと、霊的なものは人間を魅了してきました。世界的宗教はみな2000年程度の歴史を持っていますし、それ以前の土俗宗教となるとほぼ人類史と同じ長さになることでしょう。それらはさておき、もっと単純でテレビ受けするような霊能者たちについていえば著者の分析は非常に優れていると思います。しかしそれでも霊的なものに惹かれてしまうことには言及できませんし、本書でも言及されていません。宗教社会学的にまっとうな態度です。

それにしても、このご時世でドル箱である占いやらスピリチュアルやらを俎上にのせた新書がでる、ということ自体が驚きです。利害関係が対立していたり「トリックを暴く」的な扇情的なものならともかく、少なくとも売れている人をあれこれいじるのは、出版社にとっても冒険だったと思います。

ちなみに僕は信仰を持っているつもりなので、霊的なものは信じていることになっていますが、それを信じるのと現実的に真実であるかどうかというのはまた別の話だと思っています。それよりもバナナの品薄をどうにかして欲しい。ああいうのも充分宗教的実践だと思うのだけど。

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