2008-10-05

象られた力

象られた力』(飛浩隆)を読みました。「デュオ」「呪界のほとり」「夜と泥の」「象られた力」の四つの中短編が収められています。

個人的には「デュオ」が一番気に入ったのですが、それはさておき作者の緻密で固い感じのする文章には圧倒されます。「呪界のほとり」はほんの少し毛色が違いますが、基本的にはどの作品も華美で退廃的で、優しくて残酷で。滅んでゆく何かを捉まえようとするときに、するりと手からこぼれ落ちる何かを、丁寧にすくい取り直すような印象を受けます。

そしてどの作品でも色や音、におい、手触り、味覚、かたちなどが鮮やかにイメージできて、まさに文章の力を見せつけられる気がします。僕はまったく無知にして、先日『グラン・ヴァカンス』を読むまで飛浩隆さんという作家を知らなかったのですが、SFというジャンルを考慮しなくても、すばらしい作品をつくる作家です。僕のような疎い人間があらためて言うことでもないとは思いますが。

SF好きではない人にもおすすめしたいのですが、ちょっとした癖があって、作品の官能性(特に性的官能)に引っかかるところもあります。また残酷すぎるきらいもありますので、そういうのが苦手ではない方はぜひ。

0 件のコメント: