2008-10-30

『"文学少女"と慟哭の巡礼者』

"文学少女"と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)』(野村美月)を読みました。"文学少女"シリーズの5作目です。

不覚にも感心(感動ともいう)してしまったではないですか。作者はシリーズ中でこれまでに取り上げてきたどの作品よりも、宮澤賢治の作品が好きなのでしょうか。本作では宮澤賢治の色々な作品を下敷きにしているようですが、中心となるのは『銀河鉄道の夜』でした。

僕も宮澤賢治の作品は大好きでした(あるいは大好きです)。はじめて触れたのは多分幼稚園に行っている頃ですし、長期入院をしていたときには朗読のテープを繰り返し聞きました。宮澤賢治の伝記や作品研究なども読み漁り、学生の時には筑摩書房からでていた全集を買ってしまったくらいです。

本作に感心したのは、とても宮澤賢治の作品をよく織り込んでいるなと思ったことも関係してくるのかも知れません。シリーズこれまでの作品よりも、プロットなどを下敷きにする度合いは少ないのですが、それでも上手く宮澤賢治の作品や生涯に乗っかっています。例えるなら、これまでの作品では原作と併走していたところが、本作では原作の肩の上から地平を見る感じです。色々な意味で痛々しい話であることには変わりませんが、本作ではほとんど萌え要素が顔を見せません。強いていうなら某登場人物の女王様ぶりくらいでしょうか。

それにしても"文学少女"。シリーズがすすむにつれて何かを思い出させると思ったら、京極堂によく似ているのです。事件に隠れる物語を読み解き、最後にその物語を解き明かして、関係者一同の憑きを落とす。まるでカンッと高い音を立てて鴉のような漆黒の男が登場し、「誰です、あなたは」「世界を騙るものです」とか言いながら憑き物落としが不思議な事件を解きほぐすように、「あなたは誰?」「見ての通り、"文学少女"よ」とか言いながら、想像で物語を読み解く制服姿の遠子先輩が登場するのです。

6作目(番外編)は既に確保しているのですが、7作目以降はまだ図書館で返却待ちです。シリーズの終末がどういう場所に落ち着くのか楽しみですが(かなり想像はできますが)、それを知るのは少し先になりそうです。

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