2008-10-23

ボートの三人男

ボートの三人男』(ジェローム・K・ジェローム)を読みました。

第一章を読み終えるまでに思わず声に出して笑ってしまったのが3回。その後は「こういう本を読むときには、世界の終わりが明日に迫っているときのようにしかつめらしい顔をして読むのが正しい」と気持ちをあらためて、ニコリともせずに読み終えました。

さすがに長く生き残っている本だけあって、面白いです。面白いと言うだけではその面白さは決して伝わらないのが常ですが、この本の解説に井上ひさしさんが書いている以上にその面白さを伝えることは難しいので、無駄な努力は早々と放棄することにします。

この本を読むときに気をつけたいことは、ゆっくり読む、ということでした。面白いあまりについつい先走ってしまうのですが、過剰な美文で描かれるテムズ河畔の情景やその歴史的背景もじっくり味わうことで、その他のスラプスティック・コメディが引き立つというものでしょうか。僕は訳者の丸谷才一さんのように英文学への造詣は深くないのですが、丸谷さんの書かれたように「奇妙なことだが、『ボートの三人男』はユーモア小説として着手されたのではなかった。テムズ河についての歴史的および地理的な展望の書として目論まれたのである」ということを鵜呑みにはできません。単純に面白可笑しく読んだだけです。

庭木をなぎ倒すような嵐の夜に「ちょっと涼しいようですな」という英国人。とにかく責務を回避することを第一の責務と信じる英国人。7シリング6ペンスの持ち金で6シリング11ペンスの買い物をするといくら残るかについて、いささかの不便も感じない英国人。1クラウン貨が流通していないのに半クラウン貨が流通する不条理を許容する英国人。摩訶不思議なシステムである華氏を採用している英国人。僕が偏見とともに知っている昔の英国人はこんな感じですが、その他色々の19世紀の類型的英国人の所作が大げさに誇張され、過小に抑制されて描かれているので、これほどまでに面白く読めるのでしょう。

いまは既に、こうした面白さはよほど誇張しなければ存在しなかろうかとも思うのですが、「どくとるマンボウ」はじめの頃の北杜夫さんはこれに似た面白さだったな、と思い出しました。

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