2008-10-26

『"文学少女"と死にたがりの道化』

"文学少女"と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)』(野村美月)を読みました。今更ながらの選択ですが。

まず1ページ目の最初の文が「恥の多い生涯を送ってきました」からはじまりますので、「おお、『人間失格』か」と思わされます。高校生の頃に太宰治の文庫本を手に入る限り手に入れて、没頭していた時期もありました(誰しもそういう時期があると思います)ので、うしうしと読み始めたのです。どのように料理してあるのかな、と。

感想としては、それなりに満足です。途中かなり強引な展開もありますが、まあ妖怪やら幽霊やらの出てくるシリーズだと思っていますので、あまり気にはしません。それよりも前回読んだシリーズ二作目の『飢え渇く幽霊』と同じ感想ですが、見事に思った通りの展開と思った通りのベタなキャラクターが素敵です。こういう種類のものは近い将来は伝統芸能になるのではないか、と思うくらいにベタです。

まるで「悪党(何故見ただけでわかる?)に絡まれている女性を救ったら、実はその女性はやんごとなき方で……」とか「転校初日に遅刻しそうになったのでパンを咥えながら学校に走っていると、曲がり角でゴツンと同じクラスの異性にぶつかってしまう(そして下着が見えてしまう)……」といった感じです。もちろんそうしたお約束だけでは作品になりませんので、きちんとストーリーはつくってありますし、文学ネタも所々にちりばめられていて結構お勉強にもなりますし(それにしてもお約束の名作が多い)、『人間失格』の本歌取りにもなっていますので、それなりに満足なのです。

作品のラストの方で、ある場面である説得をする遠子先輩の台詞が素敵すぎました。最後のところだけ引用すると「少なくとも、太宰治全集を隅から隅まで繰り返し百回以上読んで、太宰のレポートを千枚くらい書くまで、生きなきゃいけないわ!」とのことです。世の中のほとんどの人が死ねませんね。

ちょっと追記しますと、僕が『人間失格』を最後に読んだ時期ははっきり覚えていて、高校2年生の2月第1週の土曜日でした。当時お付きあいをしていた女の子に振られて1ヶ月だったのです。いや、なんと恥ずかしい本の選択。

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