2008-10-24

『没落のすすめ』

没落のすすめ―英国病讃歌』(G・ミケシュ)を読みました。『ボートの三人男』を読んで、むらむらと再読したくなったのです。

著者のミケシュはハンガリー生まれで、第二次世界大戦頃にイギリスに帰化した人です。英国人以上に英国人らしい人だと言うことです。この本は1977年に『How to be DECADENT』として出版されましたが、茶目っ気と皮肉たっぷりに当時のイギリスの没落ぶりと過ぎし日の大英帝国の繁栄を賞賛しています。

つまり、かつて世界の三分の二を支配した大英帝国は、公平と平等とバランス感覚を尊重しているので、今度は諸君ら非英国民が世界を支配し、大英帝国は優雅に没落しよう、ということです。優雅に没落するためには非常に高度な技術が必要で、その技術は在りし日の英国人的振る舞いを英国民全てが続けていることで身につけることができるとうわけですね。もちろんこれは冗談で「英国人たる者、いたずらに英国人であるのではない。没落という永遠の栄光にむけて、われらはいま勝利の行進をしているのである」というように。

著者自身が英国人的になるのには非常に苦労をしたようですが、一度エスタブリッシュメントの一員になったからには、今度はそれを周りに分け与えてあげようという、とても親切な本です。偏見たっぷりのイギリス的ユーモアに充ち満ちていますので、「英国人的」なことを過剰に誇張して賛美しますし、極度に卑下しています。その両極を持つからこの本も面白く読めるのだろうと思いますが。

極端な一文を引用します。

わたしも変ったし、英国も変った。

まず言えることは、わたしは英国民以上に英国民的になった一方で、英国民はより非英国民的になってきた、ということ。三十年昔の年若き亡命者の身分にくらべて、わたしの暮らしむきは多少よくなってきた一方で、英国民はますます貧乏になってきた、ということ。わたしがハシゴを数段上った一方で、英国民は何段も何段もおりていった、ということ。わたしの中のヨーロッパ性が薄らぐ他方、英国はますますヨーロッパ色を濃くしてきたことである。それに、英国は帝国を失ったかわりにこのわたしを得た、という点を見逃すわけにはゆかない(思うに正直な話、この得失は微少なものではあろう)。


この本をはじめて読んだのは高校生の頃でしたが、naturalizeという言葉で「帰化」を意味することに気づかされました。つまり日本国籍を持っている僕などは、自然ではなく、生来のものではなく、まともではなく、人工的で、作為的で、超自然的な存在だと言うことです。

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