2008-10-22

『妖女サイベルの呼び声』

妖女サイベルの呼び声』(パトリシア・A・マキリップ)を読みました。前々から気になっていた本に手を出した次第です。

感想は……。完璧です。完璧な世界、完璧な登場人物、完璧なストーリー、その他色々。もしも無人島にこの作品だけを持って行ったら、きっとあれこれ文句が言えなかったり、修正したりできなくて退屈してしまうでしょう。それくらいに完成されています。完成されているからこその欠点もあり、もっと長い話で世界を味わいたい方には不向きでしょうし、ストーリーはきちんと一筋の流れになっていますので、読んだ後に広がりを持ちたい読者にも不向きだと思いました。だから面白く読める人が限られてしまいますね。

この作品ひとつにどっぷりと浸れば、これほど素敵な読書体験をさせてくれる本には久しく出会っていませんでした。ファンタジー作品の枝葉末節に関しては、大抵の場合「そういうものだ」と割り切れるから、読書の要はまさに浸れるかどうかです。で、僕は頭のてっぺんまですっかり浸ってしまったのです。もっと早くに読めば良かった。

内容の紹介など無用です。もしもゲルマン系・ケルト系の剣と魔法のファンタジーが好きなら「読め、浸れ」というだけで充分。とはいうものの僕が少しだけ違和感を持ったのが、ドラゴンの描写でした。僕はこの作品を読むまでドラゴンはずっとトカゲかイグアナのような幻想動物だと思っていたのですが(ついでに言えばユーラシア大陸東側の龍は蛇みたいな神獣で、南アジアでは単なるナーガと思っていました)、気になって調べてみたら各種の伝承や叙事詩の原語では「蛇」を語幹としているようです。ドラゴンは蛇のような幻想動物だったのですね。思わぬところで勉強になってしまいました。ということは、僕がこれまで思い込んでいたドラゴンの姿は一体何だったのだろうと記憶をさかのぼると、中学生の頃に読んだ『幻獣図鑑』(出版社も編者も忘れました)でした。そこに描かれていたドラゴンはウェールズのドラゴンだったようです。

つまらぬ蘊蓄はさておき、面白かったの一言で済ませられる本でした。人生に対して考えることや、歴史に思いをはせることや、その他色々の夾雑物とは無縁の本だと思います。

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