2008-08-22

カンボジア・0年

カンボジア・ゼロ年』(フランソワ・ポンショー)を読みました。原著は1977年の出版ですので、クメール・ルージュの政権がまだ存続して、対外的には国内政治を秘密にしていたころの出版物です。出版された当時はあまりにもショッキングな内容だったため、相当なバッシングを受けたようです。しかし30年経ってみるとほぼ正しいことがわかってしまうのですから、先見の明というか眼力の鋭さというかはすごいですね。

本書の史料的価値は主に難民からのインタビューと民主カンプチアの公的放送とを比較して、できるだけ広範囲な出自からの証言を取ろうと精査しているところにあると思います。古い書籍のため、史実として新しく知ることは多くありませんでしたが、これまで僕がクメール・ルージュを理解しようとして読んできた書物の中の多くは本書を参照しているので、できるだけ一次資料に近いところに接するという意味で大変面白い本でした。

もちろんインタビューをただ編集して「事実はこのようなものと推測される」というだけの本ではありません。筆者なりの分析もありますが、すでに出版から30年経過しているのでそれほど斬新な分析ではありませんでした。しかし限られた資料だけからこれだけの内容を叙述するには大変な労力と能力が必要であろうと推測されます。筆者、いい仕事しましたね。

難民たちの証言というのは充分慎重に検討する必要があるというのは、きわめて当たり前のことです。避難してきた人の立場によっては現政権を批判するのが当然ですし。その当たり前なことをしっかりとやっている筆者の労力たるや、歴史家やジャーナリストは筆者(宣教師です)に見習うべき点が多いと感じました。決してプロパガンダに流れず(本書を引用してプロパガンダに利用することはとめられないにしても)、あくまで冷静で慎重です。

古い本ですが、当時のことを当時の人が綴った本として、僕は絶賛します。

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