2008-08-16

夜に猫が身をひそめるところ

夜に猫が身をひそめるところ Think―ミルリトン探偵局シリーズ〈1〉』(吉田音)を読みました。順番は逆になりましたが、『世界でいちばん幸せな屋上』に続いて吉田音さんの作品(とされる)を読むのは本書で二冊目です。

『世界でいちばん幸せな屋上』もそうでしたが、本書もスタイリッシュな本です。ミステリともファンタジーともつかない小説だし、写真も装丁も綺麗(まあこれはクラフト・エヴィング商會の作品に一貫していることですが)。優しい語り口でどうしても好感を持たされます。

筆者である(とされる)吉田音さんを中心とする物語、菓子職人の物語、ホルン奏者の物語などが錯綜して、それらを一本の糸が紡ぎあわせるのですが、その一本の糸は猫のシンク。本書には多くの猫が登場しますが(写真つき!)、猫好きなら必読とまでは行かないまでも読んで愉快になれることは確実です。

ですが登場人物たちは猫のシンクによってひとつの物語になっているかもしれないことはわからず、謎は謎のままそれぞれ別々のストーリーが語られます。メタ物語とでも言うのでしょうか、そもそも作者がメタな存在だから当然といえば当然ですが。さらに僕は猫のシンクの「おみやげ」のうち、多くを語られることのなかった物語までも想像して楽しみました。ミルリトン探偵局の自家版です。

まさに幸せ色の小説とでもいうべきで、読み終わるまでもなく幸せな気分に浸れるのですが、さて『世界でいちばん~』とこちらと、どっちを先に読んだほうがよいか後になって悩みました。結果として一冊だけ読むなら『世界でいちばん~』を、二冊とも読むつもりなら『夜に猫が~』から読むのが、楽しみ方としては順当かな、と思います。

一箇所だけ苦情をいうなら、僕の拙い経験だけかもしれませんが、プロの楽器演奏者は本番前に自分の楽器を磨いたりしないと聞いたことがあります。僕が教わったところによると楽器を磨くのは練習のとき。本番前に磨くと万が一調整を狂わせてしまったときに取り返しがつかないことになるから、ということです。まあファンタジーでもありますし、重箱の隅をつつくような話ですが。

0 件のコメント: