2008-08-17

ポル・ポトの掌

ポル・ポトの掌』(三輪太郎)を読みました。以下では結構物語のネタをばらしているかもしれないので、気にする方はご注意ください。

主人公の日本の生活と現代のカンボジアがかわるがわる描かれます。主人公は大学在学中に株式の売買を覚え、株式のディーラーを職業とすることになります。しかし1990年くらいを境に主人公の身につけた株式売買の勘と理論は暗礁に乗り上げ、主人公の幼馴染かつライバルがカンボジアで命を落としたことを知り、カンボジアへと旅立ちます。

たいした読後感は持てませんでした。単純な二項対立の連続で、単純な暗喩の連続。あまりにも内省的過ぎる主人公やその周りの人たちとの会話。接地点があやふやな印象を受け、理想に駆られて書き綴った小説、という感じがしました。

二項対立は単純に言うと自由主義経済と社会主義経済。未来予測の確実性と蓋然性。真理の「アル」「ナイ」。それらをごた混ぜにして、あたかも哲学論議のような主人公の内省と登場人物たちのとの会話を軸に物語りは進んでいきます。

舞台としてカンボジアを選んだ必然性も、極端な社会主義政策を採った民主カンプチアのポル・ポトという魅力的な人物を選んだ、というだけのことに思えてしまいます。小説内では古代遺跡をめぐったりしていますが、たいした必然性(あるいは偶然性)はないように思えます。

タイトルとなっている「ポル・ポトの掌」ですが、この作品の一番の山場はやはりポル・ポトという人物にあるのでしょう。主人公とポル・ポトとの会話は短いですが、経済について、人の幸福について、宗教について、歴史をみる視点について語り合います。この場面だけを見れば非常に壮大な小説のようですが、そこにいたるまでの設定には無理があるように感じました。

すごくちょっとした発見。小説の面白さは細部にも宿る、ということですごく細かいところに感心したりするのですが、カンボジアではガソリンが黒い、ということが驚きでした。日本では通常の燃料用ガソリンはオレンジ色なので。

0 件のコメント: