2008-08-14

火怨

火怨 上』『火怨 下』(高橋克彦)を読みました。

読む前はきっと風土記とかを中心史料とした歴史小説だと思ったのです。ところが読んでみると(おそらく)中央史料をもとに想像力をふんだんに駆使して描かれた熱い男たちのロマンでした。熱い男は嫌いではありません。好きでもありませんけど。ただなんとなく『サラリーマン金太郎』の歴史小説バージョンを読んでいるような気がしてきました。

ヒーローたちが活躍することに不満はありません。古代日本の未開地(失礼)を小説にするとしたらそれに変わる方法はないでしょう。しかしひねくれた僕はどうしても、その裏で農作業にいそしむ人たちや、兵糧を確保する人、兵站を維持する人、女子供老人が気になって仕方ないのです。それを描こうとすると「蝦夷とはなにか」という壮大な研究論文が出来上がってしまうので、無理な話でしょう。

いっそのこと、これを小説と認めるか否かは評価が分かれますが『空海の風景』みたいに、半分は現代の視点を持った道への探索行としてしまったら、どんな小説が出来上がったでしょうか。想像するとなんだか楽しくなります。

もちろんあれこれ言ったけれども、『火怨』に不満はありません。圧倒的な筆力で中央の正史に挑んでいます。登場人物たちへの筆者の個人的シンパシーもあるのでしょうが、みな魅力的であっぱれいい男です。それに戦略的な描写も巧みに描かれています。侵略と自己正当化の歴史でもある中央の正史に対する挑戦として、とても素敵なものです。

はて、女性読者(信長の野望を好むような人を除く)はこの小説を面白いと感じるだろうか、という疑問を抱きました。

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