2008-08-30

ケータイ小説のリアル

ケータイ小説のリアル』(杉浦由美子 中公新書ラクレ)を読みました。先日読んだ『ケータイ小説は文学か』よりずっと面白かったです。というのも、綿密なインタビューやケータイ小説作家や編集者、出版社、書店員という本を作って売る一連の流れのほとんどすべての領域からのコメントも取っている点が一番の理由ではないかと想像するのですが、二番目に、筆者がきちんとケータイ小説を読んでいると想像される点です。

本書によると書籍になったケータイ小説は地方で売れる、との事。ケータイ小説の最近の傾向としては少女マンガに近い内容で(だから中学生の親も買い与えやすい)、恋愛への信仰が残り、東京に憧れを持たない地方都市での売れ行きがよい理由だろうと推測しています。

また、かつてのレイプ、援助交際、人工妊娠中絶は減少傾向にあるということも面白かったです。こうした事柄には読者が親近感を持てないのでしょう。それでいて中心購買層はセックスに関心があるので、昔ながらの少女マンガのような「少女的リアル」な内容が好まれるとのこと。それにプロの作家が書くとそうした「少女的リアル」が損なわれたり、作家と読者が一緒になって作る感覚が薄れるため、素人作家の日常体験を元にした内容となるとのことです。

それにケータイ小説を少女マンガや少女向けライトノベルとの流れで説明をつける点も面白かったです。タレント暴露本や大人の恋物語とは一線を画した風潮は、中心購買層となる読者の妄想とマッチする、ということです。何も読者側だけの話ではなく、作家のほうも妄想たっぷりに自己満足的に書くことで読者の妄想との共感を得ていく、というプロセスを辿るという説明には納得しました。僕は少女の妄想を理解していないので、納得だけしてさしたる評価はできないのですが。

さらには作家の敷居が低くなったことにも言及されています。実質のところは曖昧としている調査ですが、一時期最も書かれるブログは日本語によるものである、という発表がありました(それはポスト数のみによる調査だったので、各国の文化も考慮して文字数で調査したら違う結果が出ると僕は信じています)。そうしたブログでの物書きの延長としてケータイ小説を捉えているところも感心しました。ブログには本当のことを書く必要もないし、匿名で書く風潮もあります。それがケータイ小説作家たちがメディアに顔を出さない理由としています。

当世を闊歩するブログ、SNS、恋愛ゲーム、少女漫画、BL、二次創作などとの関連で考えるともっと面白いことになりそうです。あとはケータイ小説世代の日常的なメールのやりとりなどからテキスト分析や会話分析などをしたりすると僕は萌えますね。

本書を読んで、今後のケータイ小説はより「一人一生涯一小説」的なものになりそうな予感がしました。功成り名をとげたおじいさんの自伝ではなく、妄想真っ盛りな人たちの書く半自伝です。そうすると作家はなかなか育たないでしょうが、本は売れます。それと読者とのコラボレーションで作られる書籍も増えることでしょう。今までの作家は常に孤独な作業を強いられましたが、それも複数人で励ましあったり感想を述べあったりしながら書く風潮となることでしょう。才能ある作家の書く見事な文章に出会いたければ、今後しばらくの間は大丈夫でしょうが、数世代後のことを考えると薄暗い気持ちになります。

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