2008-08-04

P.I.P.―プリズナー・イン・プノンペン

P.I.P.―プリズナー・イン・プノンペン』(沢井鯨)を読みました。「超個人的クメール・ルージュ祭り」の一環として人から教えてもらったのですが、この本は1997年ごろに無実の罪で投獄された著者の体験に基づくフィクションです。

主人公の元教師がプノンペンでいわれのない罪に問われて不条理に投獄されるお話です。淡いロマンスあり、騙し騙されあり、悲惨な獄中生活あり、マッチョなファイトあり、八面六臂の活躍をします。スリリングでスピーディな小説で息も切らせませんが、何かは残りません。ビールで言うと喉ごしは良いけれど味はない、みたいな。

きわめて主観的な感想をいうと、まず主人公が「隠れマッチョ」なのに萎えました。そして多めの誇張(と思われる)で書かれた獄中生活とカンボジア人観に嫌気がさしました。正義の味方のような主人公も最終的には「郷に入れば郷に従え」的に人を欺き、貶め、嬲る様が不快でした。ご都合主義的に展開される終盤のストーリーにはがっかりしました。

僕の最大の疑問としては、一番の売り物であるはずの獄中生活を、どうしてストレートにノンフィクションで書いてくれなかったのでしょうか。わざわざフィクションにする必要が感じられなかったのです。せっかく得がたい経験を不本意にも得てしまったのに、どこまでリアルなのかわからないフィクションよりも、きっちりとしたノンフィクションのほうが世の中の人(少なくとも僕)の知りたい・求めるところではないか、と思うのです。

この本を紹介してくださった方には申し訳ないけれど、「読んでいて痛快である」のは確かですが、カンボジアの姿はどうなっているの? という欲求にはあまり応えてくれませんでした。

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