2008-08-28

怖い絵

怖い絵』(中野京子)を興味本位で読みました。

本書で取り上げられている「怖い絵」とされる名画は、
・ドガ『エトワール、または舞台の踊り子』
・ティントレット『受胎告知』
・ムンク『思春期』
・クノップフ『見捨てられた街』
・ブロンツィーノ『愛の寓話』
・ブリューゲル『絞首台の上のかささぎ』
・ルドン『キュクロプス』
・ボッティチェリ『ナスタジオ・デリ・オネスティの物語』
・ゴヤ『わが子を喰らうサトゥルヌス』
・アルテミジア・ジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を斬るユーディト』
・ホルバイン『ヘンリー八世像』
・ベーコン『ベラスケス<教皇インノケンティウス十世像>による習作』
・ホガース『グラハム家の子どもたち』
・ダヴィッド『マリー・アントワネット最後の肖像』
・グリューネヴァルト『イーゼンハイムの祭壇画』
・ジョルジョーネ『老婆の肖像』
・レービン『イワン雷帝とその息子』
・コレッジョ『ガニュメデスの誘拐』
・ジェリコー『メデュース号の筏』
・ラ・トゥール『いかさま師』
です。本物を見たのは多分4点くらいしかありません。

なるほど解説付きで鑑賞すると怖いな、と思わせられますが、やっぱり怖いのは描かれたことの怖さよりも描かれなかったことの怖さだと思いました。著者である中野さんの思い入れたっぷりな記述には多少辟易させられますが。

一見して怖い『わが子を喰らうサトゥルヌス』、『ベラスケス<教皇インノケンティウス十世像>による習作』や、一見して不安にさせられる『思春期』のようなものもありますし、絵の背景やその社会情勢を知って怖さを覚える『エトワール、または舞台の踊り子』や『グラハム家の子どもたち』のようなものもあります。なんとまあ一枚の絵画とは色々なものを語りかけてくるな、という感じです

一番僕の印象に残っているのは、ジェリコーの『メデュース号の筏』です。この作品の前で30分ほど立ち尽くしてしまいました(実際にはソファに座って鑑賞していたのですがね)。

この作品のことはジュリアン・バーンズの『A History of the World in 10 1/2 Chapters』ではじめて知ったのですが、それ以来何かにつけて周辺の事情を調べていました。そして実物を見るとその迫力に圧倒されました。大スクリーンでアクション映画を見ることに慣れている現代人である僕でさえ圧倒されたのですから、19世紀初頭からこの絵に接する人はいったいどんな感想を持ったことだろうと想像をめぐらせてしまいました。この絵の場合は、決して背景を知っている必要もありません。ギリシャ・ローマ的な肉体が描かれていますので、それほどグロテスクなものではないのですが、絵に込められた何かが見るものを圧倒するのです。こう言ってしまっては元も子もないのですが、絵を見たことのない人にはわからないでしょう。

きっと他の作品についても同じことが言えるのだと思います。歴史を知らなかったり絵画に親しみがなかったりすると、この本だけでは絵画は見開きになってしまうか小さくなってしまいますし、説明もこれだけでは不十分かな、という感想です。

中野さんの『怖い絵2』は読むか読まないか気分しだい(多分)ですが、久世光彦さんの同名の本は読んでみようかな、という気になぜかなりました。

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