2008-08-11

趣味は読書。

趣味は読書。』(斎藤美奈子)を読みました。先日読んだ『妊娠小説』が面白かったので同じ著者の本を適当に図書館で選んだら、本書が一番手に取りやすい場所にあったので読みました。

本書は鬼才(と僕が『妊娠小説』を読んだだけで判断しました)によるベストセラー本解説書で、43作品を俎板に載せ、いったいベストセラーはどんな内容なのか、どんな人がそれを買うのかといったことを過激に述べています。真骨頂は本編で存分に披露される、ベストセラー本をこれでもかと叩きのめす毒舌振りと冷静な観察眼だろうと思いますが、序文の「本、ないしは読書する人について」だけでも読む価値があります。

以下、序文から引用します。

『趣味は読書。』なんていう酔狂な本を手にしたあなたは、すでに少数民族なのである。その証拠に、学校、職場、アルバイト先、あるいは親戚縁者等の中で、あなたと同じくらい本を読んでいる人、本の話ができる人っていますか? ほとんどいないでしょ。本に限らず、音楽でも映画でも演劇でもそれは同じ。「趣味は○○。」といえる人の数なんて、もともと限られているのである。

いっておくけど、読書量の多寡は、インテリジェンスの多寡とは必ずしも一致しない。たくさん本を読んでいても神経の鈍い人、判断力のない人はいくらでもいるし、その逆もある。「知識人」と「大衆」なんていう単純な階層論で割り切れるほど、本の世界は簡単ではないのだ。
と読書人を薙ぎ切っています。つまり読書界は階層型ではない、とのことです。

それでは階層型ではないとするとどうなっているのか。著者の斎藤さんの類型化によると、「読書界は多民族社会」であるとして、
  • 偏食型読者(特定ジャンルや作家を読む)
  • 読書原理主義者(本に対する無根拠な信仰を持ち、教養だ古典だと偉そうなことを言う)
  • 読書依存症(新刊情報にやたらくわしく、本に溺れている過食型)
  • 善良な読者(面白い本、感動できる本を読みたい。質や内容は問わない)
と割り切っています(この割り切り方が強引過ぎて素敵です)。そして世間のベストセラーを支えているのが「善良な読者」だというのです。善良な読者は別名では「読者ビギナー」であり、偏食になるかもしれないし、依存症になるかもしれないといういわば中間層です。そして社会・経済を活性化させるのはつねに新興の中間層であると力強く宣言しています。

さて、僕は臆することなく「趣味は読書です」ということにしているのですが、ひょっとしたら「読書は生活です」に近づいているかもしれない悪しき読者でもあるのです。どんな本を読んでも面白いところを見つけるし、逆につまらないところも見つけてしまう癖がありますし、たとえ面白いところを見つけることができなくとも、類書との比較をしてああだこうだと面白がります。著者の斎藤さんに言わせると、こういう読者は「邪悪な読者」ということになるのですが、そもそも著者自身が邪悪な読者の急先鋒ではないかと僕は思いますので、ここはひとつ著者の主張を飲み込んで、邪悪であり続ける楽しみをこれからも満喫したいと思います。たとえ出版界が斜陽産業だとしても。

ここからは半ば自慢話ですが、本書に取り上げられている43の作品、誰もが名前を聞いているけれども、案外読んでいる人は読書人の中には少ない、という作品だということですが、僕は35の作品を読んでいました(決してすべて買っているわけではないので、出版社を潤したわけでもないのですが)。そして僕の読んだ35の作品は、どれもそれなりに面白いところもあったのです。とすると、僕は「善良な読者」の心を持った「邪悪な読者」ということになり、清濁併せ持つ最強無敵の読者になってしまいます。あるいは僕は読書人ではないと言うことか。

本書は実に痛快(不快?)で、やっぱり斎藤美奈子さんは鬼才だ、という感想を僕は強めました。「なんでこんな本が売れている」という疑問を持ったことがある人にはおすすめですが、目次を見てご自分の好きな本があったら敬して遠ざけるべきかもしれません。

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