2008-08-05

カンボジア史再考

「超個人的クメール・ルージュ祭り」の一環で『カンボジア史再考』(北川香子)を読みました。本書はばりばりの専門書で、素人さんお断りな本ですから、僕はぜんぜん消化できていません。ただひたすら、超巨大国家(中国やらインドやら)に挟まれた地域というものは、周囲の影響を受けつつ人種的にも文化的にも坩堝状態になるのだな、という感想です。これは日本にもいえたことですが、日本の場合は交易の最末端となるためにものすごい影響は受けてこなかったとも思えますが、もしも東南アジアのように交通・交易の要所となっていたらと考えると、よく似ています。

ただ、漠然と得られたものは数多くあります。例えば植民地的な歴史観を持つと、明確に区分された領土と国家という視点になりますが、そうではなくてカンボジア史を考える上では東南アジア全域の交易とネットワークで考えるべきではないか、とか。つまり農本的で中央集権的なな性格のアンコール期から、より分散した港市国家的性格のポスト・アンコール期、ということです。

それから通説となっている歴史観では、「アンコール期に栄えた本来の住人であるクメール人が、タイ人やベトナム人に侵略されてきた」ということになっているそうですが、これもカンボジア史研究が主にフランスによって牽引され、植民地期にはフランスによる支配を正当化してきた、とのことです。

本書(に限らずカンボジア史研究では)では大まかな時代区分として「プレ・アンコール」「アンコール」「ポスト・アンコール」と分け、本書ではそれぞれの時代区分の通説を紹介し、それに対する異説を多数紹介する、という体裁をとっています。これまでのカンボジア研究での典拠は、漢籍やサンスクリット碑文を重視してきたようですが、最近の研究方法としては主要な史料とすべきクメール語碑文に重心が移ってきているそうですし、王朝史研究のみではなく、社会経済史にも目を向けているそうです。カンボジア史に対する素養か熱意のある方は手にとってみると面白いかもしれません。

それにしても「素人さんお断り」の本でした。

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